マッシュルームの親方
港にあるマッシュルームの親方みたいなヤツ。
たとえば、波止場でラブシーンを撮影していたとしよう。
「じゃ、シーン125。
車で波止場にやってきた拓哉と涼子が岸壁で愛を語り合うシーンね。
そこのホラ、マッシュルームの親方みたいなヤツのところにふたりが歩いてきて、ふと立ち止まる。
そしてそのマッシュルームの親方みたいなヤツの上に拓哉が片足を乗せてたばこを吸う、と」と監督。
「このマッシュルームの親方みたいなヤツの上に乗せる片足は右足の方がいいですかね」と拓哉役の俳優。
「海を見つめながらだから、右足の方がいいな」と監督。
「あのオ、マッシュルームの親方みたいなヤツまで何歩ぐらい歩く感じですか」と、今度は涼子役の女優。
「四、五歩歩いて立ち止まるって感じだな」と監督。
「あの、マッシュルームの親方みたいなヤツに足を乗せるとき、一回すべって海に落っこちて笑いをとったりしちゃダメですか?」と拓哉役の俳優。
「誰の?涼子の?」「いえ、視聴者の」「おまえ、これはラブストーリーだよ。
笑いをとってどうするんだよ」「は、そうでした」モノの名前がわからないというのは、このようにとても不便なものです。
話が「トントーン」と進まない。
おかげで、この撮影も予定より二時間ほど遅れてしまった。
日本港湾協会に聞いたところ、あのマッシュルームの親方は、「係船柱」というのだそうです。
文字どおり、船をつなぐ柱です。
英語では「ビット」といい、「どちらかというとビットの方がよく使われますね」マッシュルーム型の曲柱と、まっすぐな直柱があるという。